観光列車とは?

鉄道というのは、本来は、目的地へ行くための輸送手段であるはずです。
でも、建設されてから年月が経って、世の中が大きく変わりましたので、本来の目的は終了したところが多いですよね。
だから、バスや自動車になって、ローカル線は過去30年間、廃止されてきました。
でも、最近では観光鉄道とか、観光列車という言葉をよく聞くようになりました。
使われなくなった路線を復活したりして地元の名物になっているような列車もあるようです。
観光列車と、一般の列車とでは、いったい何がどのように違うのでしょうか。
簡潔に申し上げますと、A地点からB地点へ移動するといった輸送の役目を担うのが、一般の列車。つまり、「目的地に行くために乗る列車」が交通機関としての鉄道であるのに対し、「乗ることそのものが目的」なのが、観光列車です。
いすみ鉄道のキハ52やムーミン列車も、正に乗ることそのものを目的として皆さんいらしていただいているわけです。
だから、私は「車でいらしていただいて結構ですよ。」というのです。
東京からJRで外房線の大原に来るとしたら、交通費だけで一家で1万円ぐらいかかってしまいますが、車で来れば、森田知事がアクアラインを800円にしてくれているわけですから、もっともっとハードルが低くなって、家族みんなで来やすくなるからです。
私はJRの営業係ではありませんから、JRのお客様を増やす直接的な努力はしていませんが、いすみ鉄道でムーミン列車やキハ52を走らせることによって、結果としてJRのお客様も増えているはずですから、相乗効果と言えなくもありません。この場合でも、JRのお客様はいすみ鉄道という目的地へ行くためにJRを利用しているお客様ですから、一般の列車として乗っている本来の意味での鉄道利用者と言えると思います。
観光鉄道化をして観光列車を走らせることは、「鉄道本来の姿ではない!」ということで、お叱りをいただくこともたまにはありますが、会社として考えた場合、時代に適合するように業務の形態や姿を変えていくことは、当然のことですから、目くじらを立てるほどの事でもありません。
私が住んでいる佐倉市のユーカリが丘という地域は、山万という会社が開発したニュータウンです。
でも、この山万という会社はもとをたどれば由緒ある日本橋の繊維問屋。
もし、山万が繊維産業にとどまっていたら、今頃会社があったかどうかも分かりませんが、40年ほど前からデベロッパーとしての事業を始めて、ついでにユーカリが丘線という新交通システムも運営する交通事業者にもなってしまいましたから、その山万に毎日お世話になっている私としては、「本来はこうあるべきだ」的な考えはどうかなあ、と思うのです。
もちろん、いすみ鉄道を観光鉄道化する最大の目的は、地域の交通機関としての鉄道を維持すること。
観光鉄道に乗りに来ていただくお客様からの収入で、赤字を少しでも減らし、地域輸送を担うことと、並行して、同時進行で地域に経済を呼び込めれば良いなあ、と考えているのです。
ところで、観光列車、観光鉄道で、私が一番お手本とさせていただいているのがJR九州。
厳しい経営環境の中にありながら、地域と一体となって、鉄道を活性化するために、さまざまな観光列車を走らせています。
ゆふいんの森、オランダ村エクスプレス、隼人の風、など、その名前を耳にされた方もいらっしゃるでしょう。
私が、一番すごいと思う観光列車は肥薩(ひさつ)線の「いさぶろう・しんぺい」。
南九州の一番辺鄙な峠越えのルートを数年前に観光鉄道化し、最初1両だった観光列車が、今では多いときで3両編成で走っているのです。
JR九州の偉いところは、自社の新幹線から接続するお客様にこだわらず、観光バスのお客様を積極的に取り込んで、一部区間だけでもいいから乗ってもらっていること。
肥薩線の人吉―吉松間は、熊本、宮崎、鹿児島の3県にわたる県境を越える峠道で、ループ線やスイッチバックがある難所。
こういう区間は、峠を境に地域経済が区切られているところですから、本来はほとんど地元の人の行き来がないところ。
時刻表を見ると、肥薩線のページの欄外には注釈で、「いさぶろう・しんぺいの自由席は7席だけで、その他は指定席」と書かれています。
7席だけの自由席って何ですか? と思われる方もいらっしゃると思いますが、この7席が地元の人が利用するスペースで、観光のお客様には指定席が用意してある。
言い方を変えれば、全席指定なんだけど、隅っこの7席は地元の人用の自由席ですよということ。
つまり、この峠越え区間で地元の人が利用するのは、せいぜいこの程度なのです。
観光列車が走る前の肥薩線、人吉―吉松 間は、いつ乗っても地元の人は多くて4~5人でしたから、この区間に観光列車を走らせて、乗客が数十倍に増えたことは、やっぱりすごいことだと思います。
JR九州には、本当に勉強させていただいております。

真幸(まさき)駅を出てスイッチバックを登る「いさぶろう・しんぺい。」
この駅では地元の人たちが、野菜などの産品を発売している。