新首相秘書官

新聞の政治面に載った小さな記事に目が留まった。
新しい首相秘書官に貞森恵祐氏が就任。

懐かしい名前にうれしい思いがした。
貞森恵祐通商交渉官。  
彼とは幼馴染。
中学、高校と代々木と五反田の塾に一緒に通った。
帰り道、山手線の電車の中、私はボーっと並走するピンクの西武新宿線の電車を見ながら、
「相変わらず西武の電車はボロばっかりだな」なんて思っていると、隣で彼は今勉強してきた英語のリーダーの教科書を音読している。
満員の夜の山手線の中で声を出して読んでいる。
「ケースケ、恥ずかしくないか? こんなところで声を出して読んで」と聞くと彼は
「今日やったことを今日中に覚えちゃうんだ。1回で覚えちゃうんだ。」と言った。
当時から彼はずば抜けて優秀な学生で、平凡パンチが愛読書の私とは頭の出来が根本から違っていた。
一度、「お前の頭の中はどうなっているんだ?」と聞いたら、
「小さな引出しがたくさんあるだけだよ。その引出しの一つ一つに名前を付けるだけ。中に何が入っているかまではいちいち覚えていなくても、引出しに名前を付けておけば、その引き出しを開けると、中に入っているものがわかるんだ。」と言った。
そういうことを言っても、まったく嫌味には聞こえない。それが彼の人間性だった。
それから私もその練習をして、おかげで私の頭の中にもたくさんの引き出しができた。
ただし、その引出しについている名前は「山陰本線」「日豊本線」「函館本線」や「昭和47年」「昭和52年」って感じ。
「昭和47年」の「日豊本線」を開ければ、今でもC6120のことや急行「日南」を引く門デフライトパシ何てことがサッと出てくるけど、勉強とは程遠い。
彼は優秀だったけど、上から目線をすることもなく、いつも素直で、まっすぐだったから、女子学生の後を追いかけてばかりで落ちこぼれていく私にもいつまでも優しく接してくれた。
大学に入った頃、私は大型のオートバイに乗り始めた。
彼は「何でそんなものに乗っているんだ。オートバイなんて不良が乗るものじゃないのか?」と私に尋ねた。
「俺も最初はそう思っていたんだけど、乗りこなすのが結構難しいし、そこが面白いんだ。それに都内では便利だからな。」と私が答えると、彼は不思議そうに私を見ていたが、驚いたことに、次に会ったときに彼はオートバイの免許を取っていた。
「アキラ、君に言われたので乗ってみたら、本当に楽しいな。」
そう言って彼は赤羽の自宅から本郷のキャンパスまでオートバイで通学した。
私は板橋に住んでいたが、残念ながら本郷を通り越して駿河台に通った。
そう言う点で彼は本当に素直で、わからないことをそのままにしないタイプの人間だった。
本当に優秀な人間というのはこういうヤツのことだと思った。
彼から教わった3つのこと
「1回で憶える」「頭の中に引き出しを作る」「わからないことをそのままにしない」
私はこの30年間ずっと気を付けて生きてきたつもりだけど、頭の中の引き出しには、やっぱり鉄道と飛行機のことばかりが増えてきて、肝腎なことは何一つ覚えられない頭の構造は昔と変わらない。
でも、おかげでいすみ鉄道の社長にしていただいたし、キハ52も廃車解体を免れたから、彼に感謝しなくては。
ケースケ、おめでとう。
俺は房総半島の山の中で奮闘してるけど、君はこの国を引っ張って行ってくれ。
陰ながら応援してるぜ。