年の瀬に来て このごろ思うこと

12月も17日。もう半分が過ぎてしまいました。
今年もあと2週間ですね。
年の瀬に来て、いろいろ考えるようになりました。
いすみ鉄道は、皆様方のとても力強いご声援のおかげで、何とか廃止を免れることができました。
中間決算では、普通旅客(定期券利用者以外のお客様)の伸びがとても大きく、鉄道を使って、地域に集客をもたらしていることがはっきりとわかるような数字をいただきました。
私の英断?で導入を決めた国鉄形ディーゼルカー「キハ52」が無事到着し、先日の撮影会では1000人を超えるたくさんのファンの皆様にお越しいただき、大盛況をいただきました。
自社養成乗務員の話も、周囲のご理解をいただき、訓練の方も順調に進捗しており、何とか今から1年後の来年の12月頃には第1期生が予定通り1人前の運転士として一人立ちできそうなところまで来ています。
世界経済が低迷し、政治が混迷している中で、いすみ鉄道を取り巻く環境も決して良いとは言えませんが、それでも、このようなありがたい結果をいただいていることに、ご支援いただいている皆様のお力は勿論、社会というか、世界というか、時代の流れというか、そういう見えない力を感じ、森羅万象に感謝している次第です。
そこで、今の私には、少し不安というか、「こんなにうまく行って良いのだろうか」という気持ちが生まれてきています。
先人たちの言葉を借りれば、人生には「3つの坂」があると言われます。
1つは「上り坂」、もう1つは「下り坂」、そして残る1つは「まさか」です。
いすみ鉄道は誕生以来23年間ずっと「下り坂」でした。
ここへきてやっと「上り坂」の兆しが見えてきました。
飛行機で言えば、高い所を飛んでいたのが、徐々に高度を失って、墜落寸前まで地面に近づいていたものが、やっと水平に戻り、ゆっくりと上昇を始めたところです。
こういう時に気をつけなければいけないのが「まさか」の存在と言われています。
そしての「まさか」は何の前触れもなく突然現れるようです。
飛行機を例にとるならば、やっと上昇に向かっているところでエンジントラブルに見舞われるようなものでしょうか。
私は今、いすみ鉄道でもこの「まさか」に気をつけなければならないと思うのです。
存続が決まり、お客様も増え、売り上げも上がり、すべてが順風満帆に見えるようですが、油断してはいけないということです。
いすみ鉄道は観光列車を走らせてお客様にいらしていただくことを考えていますが、あくまでも鉄道輸送事業であり、遊技施設ではありません。
ですから、忘れてはいけないのが安全です。
安全と一口で言っても、セキュリティーを含め、とても多くのジャンルがあり、それぞれに対応方法があります。
いすみ鉄道で、今、私が懸念しているのは、線路設備の老朽化、車両の老朽化、そして乗務員の高齢化です。
いすみ鉄道は「上下分離方式の考え方」で運営されています。
「上の部分」とは列車の運行、営業関連であり、「下の部分」とは線路設備や車両などの修繕のことを言いますが、私が社長とした任されているのは上の部分、つまり「列車の運行と関連事業を通じて収益を上げられる体質にすること」であり、線路設備や車両設備への投資に関しては、直接の出費権限を持っていませんので、沿線自治体にお願いするしかありません。
いすみ鉄道に就任して以降、老朽化した枕木の交換を集中的に行ってきましたが、ここにきて、来春の観光シーズンに向けて、今一度線路を集中点検し、悪い所を洗い出すべく、社内に指示を出し、急勾配と急カーブが連続する上総中野方面から、緊急作業に取り掛かっています。また、地元自治体の幹部の皆さま方にも、安全のための出費をお願いして、ご了承をいただきました。
乗務員の高齢化も深刻です。
いくらベテランと入っても、高齢化してくると、今まで出来ていたことができなくなります。
これを食い止めるために一番有効な対策として、「訓練生の育成」を行っています。
人に教えるために、長年自分たちがやってきたことを再確認し、基本動作を徹底させることで、ベテランが陥りやすい「まさか」を避ける方法です。
いすみ鉄道の運転士さんたちは国鉄時代からのたくさんの経験を有しています。今度導入しましたキハ52の取り扱いにも精通している方々がたくさんいます。
こういう「生き字引」のような人達の技術を次の世代に伝えるとともに、彼らの技術の再確認と向上を怠ってはならないのです。
もう1つ忘れてはいけないのが、関連事業商品です。
いすみ鉄道では「い鉄揚げ」をはじめ、たくさんの食品を販売しています。
ほとんどの物は食品加工業者に発注して作らせてはいますが、油断はできません。
特に、田舎のボランティア団体が作っているような手作り品は注意が必要です。
いすみ鉄道が販売する以上、「うちで作ったものではないので」は言い訳になりません。
ということで現在開発中の新商品(来年1月発売)は、製菓メーカーに発注し、開発しています。
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人間もそうですが、企業も、業績が良くなって上り調子になると必ずいろいろな罠に陥りやすくなります。
経営者が慢心して管理が甘くなったり、コンプライアンスに引っ掛かるようなことをしたり、だんだんと横柄になったり、過去の企業のトラブルを振り返ってみると、事例には事欠きません。
ネガティブ思考ととらえられるかもしれませんが、今一度業務全般を見直して、不安材料を1つ1つ消していくことが、特に安全に関しては必要だと考えています。
とはいっても、予算が限られていますから、大手がやっているような「踏切事故を防止するために、線路を高架化して踏切をなくす」なんてことはできるはずがありません。
あくまでも経営の身の丈にあった安全対策ということになりますが・・・
これは私の心の内面の問題ですが、いすみ鉄道社長として、この辺で一回ふんどしの紐を締め直さなければいけないと考えている今日この頃です。