言うまでもなく私のことでありますが、第3セクターの雇われ社長って、人のうちの冷蔵庫の中の残り物でごちそうを作る仕事だと、私は考えています。
ある日の夕方、見知らぬ人の家に招かれて、夕ごはんを作ってくれと頼まれます。
冷蔵庫の中を見せてもらうと、なるほど、どうにもならないような残り物ばかり。
それ以外に使えるのは、米櫃の中にわずかに残ったお米と調味料ぐらい。
家族は皆、お腹を空かして待っていますから、与えられた時間はわずかです。
さあ、これであなたなら何を作りますか?
私は、この課題を与えられて奮闘しているというのが現状です。
潰れそうな第3セクター鉄道は、まさしく人のうちの冷蔵庫の中のよう。
家にお邪魔させてもらって、失礼しますと冷蔵庫の中を見せてもらって、そこではじめて現実を直視するわけです。
えっ、こんななの? と。
人もいない、物もない、場所もない、そしてもちろんお金もない。
でも、これでどうしろって言うんだ! と嘆いていては、せっかくお家の中に招いてもらって、冷蔵庫の中まで見せてもらったのに、めったにないチャンスを活かすことができません。
今まで培ってきた技術と、磨いてきた料理の腕と、底抜けに楽天的なおめでたい性格を発揮する絶好のチャンスと思って、限られた時間の中で奮闘しているのが、私の今の姿です。
そして、いくら頑張っても、その家の家族が、できた料理を「おいしいね」と評価してくれなければ、次へ進むことができない仕組みなのです。
どうです?
皆さまなら、こういう第3セクターの雇われ社長の仕事ってどう思います?
そんな、先の見えない仕事や立場って不安でイヤだという人も多いでしょう。
でもね、私は楽しくで楽しくてしょうがないのです。
だって、いすみ鉄道と言う冷蔵庫の中には、宝もののような素晴らしい材料がいっぱい詰まっているのですから。
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私がいすみ鉄道の社長に就任して初めて国吉駅を訪れて、ホームに立って思ったこと。
それは、「ここにはお金がたくさん落ちている。」ということ。
ムーミン列車応援団の事務局長を務めていただいている吉田さんが、よくその時の話をされます。
「社長は、ここにはお金がたくさん落ちているって言われましたけど、その時は何を言っているのかわからなかった。でも、だんだんあの言葉の意味が分かるようになってきました。」
さすが、吉田さん。
田舎の洋品店のご主人ですが、週に1度は東京に出て、流行や時代の流れを敏感に感じ取るアンテナを磨いている方です。
いすみ鉄道と言う冷蔵庫を開けて、まず見えたのが、古ぼけたディーゼルカー、還暦を迎える年齢の職員たち、老朽化した施設、そして残金が底をつきそうな通帳。
私はこの時、こう考えました。
古ぼけたディーゼルカーは、全国的に見ても今どき貴重なレールバス。それをきれいに維持して大切に使っている。
還暦を迎える年齢のスタッフは、技術や経験が十分に蓄積され、尚かつ私利私欲を卒業したすばらしい人的財産。
老朽化した施設は、そのまま昭和が残っているし、
残金が底をつきそうな通帳は、「これ以上落ちることはない。あとは上昇のみ。」
だから、毎日が楽しくてしょうがないのです。
そして、私を選んでくれた偉い人たちに、心から感謝しています。
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ということで、今日もこれから、落ちているお金を探しに出かけます。
夕ごはんを作るために、スーパーへ行って買い物することはできませんが、そんなことしなくても、いすみ鉄道と言う冷蔵庫の中には、まだまだ沢山、使える材料が、見向きもされない状態で残っているのですから。
さてさて、皆さまには何が見えますか?
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