本日はハードディスクの中から1枚の写真をご紹介する「今日の1枚」です。
トキ鉄時代、運転士経験者の幹部社員と話をしているとき、
「停止位置目標って大切ですか?」
と尋ねました。
すると、彼は
「どういうことですか?」
と聞き直してきました。
「雨降っているときとか、大雪の時とか、1両のワンマン列車なら待合室の横で停めてあげたらお客さん濡れないでしょ?」
私がそう言うと彼はしばらく考えていました。
実は駅によっては待合室やホームの出口の階段からずっと離れたところに停止位置目標があって、屋根がないところに列車を停めるので、私はそういう日には支障がない限り待合室や出口のすぐ近くに列車を停めてあげたらいいのではないかと思っていたのです。
かつての本線ですからホームは8両編成や10両編成が停まれるほど長くて、5m、10mずらして停めたって何の問題もないと私は思っていました。
するとその幹部社員は、
「そういう鉄道が他にもあるんですか?」
と、聞き返してきました。
旧国鉄系の鉄道会社出身の人間は、おそらくそんなことは考えてみたこともなかったと思います。
ただ、その時はもう大手の鉄道会社ではありませんから、基本的にはできることは何でもやって行くべきだという気持ちがあったと思います。
で、私はこんな鉄道の話をしました。

豪雪地帯を走る秋田内陸線です。
私はご存じのように30年以上前から日本全国の鉄道に乗って、しかも様々な季節にビデオ撮影を続けてきていますから、いろいろなところを目にしています。
ある時、運転士さんがホームの停止位置目標をかなり外れたところで列車を停めました。
「おや、どうしたのかな?」
そう思っていると、運転士さんが、
「この駅はね、ここが出口なんですよ。」
そして、ホームのわずか2mぐらいの所だけ雪が掻いてあって、その先に出口の階段があります。
「ここは駅前のおばあさんが子供たちの通学時間帯の前に毎朝ホームの雪を掻いてくれているんです。でも、おばあさんだから何十メートルも雪掻きできないので、ほんの少しだけ、出口の階段の所だけなんです。」
そう言って、運転士さんたちは上り列車も下り列車も、そのわずか2mぐらい雪掻きがしてあるホームに列車のドアを合わせて停めているそうなんです。
鉄道会社の幹部とは言え全国の鉄道を乗り歩いている人ではありませんから、各地でどのような運転取り扱いが行われているかなど知りません。
まして旧国鉄系の大手鉄道会社で何十年もやって来ていたら、大手の常識が当たり前ですから。
ただ、その人は私より年上でしたが実に柔軟な思考回路を持っていたようで、悪天候の時に備えて列車に添乗していろいろな駅を回って下調べをされていました。
私がとても印象に残ったのは緊急事態の訓練でした。
緊急地震速報を受けて駅間に列車を停止させて乗客を安全な高台まで避難誘導する訓練を毎年のように行っていましたが、ある時、親不知付近の海岸線で緊急地震速報が鳴ったと仮定して列車を停止させるという設定でした。
左側は海、右側は崖というところで緊急停止した列車からどうやって乗客を避難誘導させるか。
ストップウォッチで時間を測りながらの厳しい設定です。
ただし、そういう場所にはご存じのように保線区員が使用するような通路がいくつかあります。
私は乗客役で参加しましたが、その職員通路の非常用階段を使って崖の斜面を登って上の道路に出ました。
その場所は上り線と下り線が離れているところで、上り線は単線トンネルで、下り線は海岸沿いです。
上り列車がトンネル内で停止したらどうなるのか。
その時はこの場所に避難路があって、その細いトンネルの避難路を通ると海岸線に出る。
ただし、津波警報が出ているときにはこの避難路を使ってはいけない。
などなど、「へぇ、そんなところまで訓練するんだ。」と思うほど、いろいろな状況を設定して毎年緊急訓練をやっていました。
で、その親不知の海岸線の訓練があってから半年もしないうちに能登半島の大地震が発生して、津波警報が発令されました。
実際に直江津の車両基地の裏を流れる川を津波が逆流して登っていきました。
その時、観光急行がちょうど数か月前に訓練をした親不知付近を走っていました。
無線も通じなくなり、本社指令室では何度も呼びかけましたが応答がありません。
結論から申し上げると、親不知の駅のホームの手前で列車を緊急停止させ、乗務員が乗客を近くの高台にある避難所まで誘導していました。
私はその急行列車を直江津駅で見送っていましたが、その中に顔を知っている人が居て、その人がXで親不知のホームの手前に停車している列車の写真をUPして、みんなで避難所へ避難したと投稿していたので、私はその写真を指令所の皆に見せて、「ほら、お客様も乗務員も無事だよ」と安心させました。
乗務員は数か月前に親不知の近くで訓練を行った際に、この近くにどこに避難所があるかを調べていたんです。
親不知の駅はホームから駅舎へ踏切があるのですが、通常の停止位置目標に停めると非難の距離が延びてしまうからだと思います。
先頭車がホームにかかる手前で列車を停めて、そこから踏切を渡って駅舎から外へ誘導したのです。
結果的に大きな津波は来ませんでしたが、一刻を争う時の乗務員の判断としては素晴らしかったと思います。
列車無線は車両備え付けですから、乗務員が車両を離れてしまうといくら呼び掛けても通じません。乗務員が連絡のために車両に戻ることも許されません。
もちろん携帯電話も通じません。
そんな状況下で、よくきちんとした判断ができたものだと感心しましたが、大先輩である幹部社員が臨機応変に対応する指導をしていたことが、正しい対応につながったと思います。
この1枚の写真から今日は、そんなことを思い出しました。
皆さん元気かな。
しっかりとした訓練と臨機応変な対応。
これができている会社は私はきちんと評価されるべきだと考えています。
もちろん、そんなことを私に教えてくれた秋田内陸線の皆様は、厳しい自然環境の中、本当に大変なお仕事を当たり前のようにやっている姿に感動させられました。
その後、私がローカル鉄道をやってみようと思ったきっかけになったのが、秋田内陸線だったのです。
今から20年以上も前、豪雪地帯の秋田内陸線での経験でした。
最近のコメント