現代版女工哀史のようなお話し

なんだか悲しい報道ですね。

新幹線走行中、運転士が腹痛で離席 我慢の限界どう対処

新幹線の運転士さんが乗務中に急にお腹が痛くなったらどうするのかなあ。
私は以前から気になっていました。

ありえますよね。
人間ですから。

今回問題になっている列車は小田原を出たら名古屋まで1時間7分止まらない列車。のぞみも新横浜を出たら名古屋まで1時間20分以上止まりません。

会社の会見を見て驚いたのは、「運転士の処分を検討している。」というコメントです。

引用したニュースによると「JR東海によると、運転士が腹痛を訴えた場合、運行を管理する指令所に連絡して指示を仰ぎ、免許のある車掌がいる場合は運転を交代できる。また、運転士の判断で新幹線を停止させることもできた。」と書かれています。

規定ではそうなっているのでしょうけど、実際にその規定を知り尽くしている運転士さんが、その規定に従うことができなかったのですから、「なぜだろうか?」と考えるところから再発防止が始まるはずなのですが、個人の責に転じているような気がして、NTSBの考え方の基本すらないのかなあという気がします。(あくまでも一連のニュース報道を見る限りですが。)

確かに、運転士資格のない車掌に見張りをさせて走行中に運転席を離れたのは許される行為ではないと思いますが、36歳のベテランの運転士さんがそうしなければならなかったのはなぜなのでしょうか?
過密ダイヤの新幹線を自分の都合で駅間停車させるということが、とてもじゃないけどできないと思ったからでしょう。自分で毎日乗務していれば、そのぐらいの気持ちになるのでしょう。

なんだか、現代版女工哀史のような悲しさを覚えました。
「あぁ、野麦峠」ならぬ「あぁ、丹那トンネル」でしょうか。

他の鉄道にも長時間止まらない列車というのはありますが、2人乗務になっていたり、あるいは車掌さんに運転士の資格を持っている人を乗務させて、途中で交代させたりしている会社もあると聞きます。アメリカの大陸横断鉄道では機関車にトイレが付いている。それも運転席の座席のカバーを開けるとそのまま便器になっているなんて話を聞いたこともありますが、それなら運転中でもそのまま用を足すことができますね。

そう考えると、何の対策も取られていないも同然で、運転士にすべてがゆだねられているように思います。

「乗務員たるもの、常に心身の状態をベストに保つことを旨とし、自分の都合で列車を遅らせることなどもってのほかである。」的なものを感じますね。

こういう時には通常は労働組合が問題視すると思うのですが、今の時代はハウスユニオンになっていて、会社に意見を申す仕組みにはなっていないのでしょうか。

鉄道会社というのは今の時代はコンツェルンとかトラストという形態になっているように思います。鉄道会社本体を頂点として、各種様々な関連会社がそれに連なっているわけですが、鉄道会社本体の職員の人はそのトラストの頂点に君臨している形ですね。
航空会社もそうですが、空港で働くいろいろな職種がある中で、航空会社が一番頂点に立っている。私の若いころなどはそういう形態を勘違いして「私はあなたたちとは違うのよ。」とサポートする職務の人たちを下に見るような乗務員がいましたが、頂点の人はすそ野で働く人たちに比べると給料も労働条件も良い。
そうなって来ると、労働組合も力を失ってきて弱体化してくる。
関連会社のすそ野の人たちは労働組合すらないようなところが多く、雇用形態も不安定ですから、頂点の本体の人たちは自分たちは別格だと感じるようになる。
そんな感じで推移してきたのを覚えています。

でも、そういう本体の皆様方は、たまたまそういう組織に採用されて属しているわけで、そういう人は決してブルジョワジーではなくて、プロレタリアートなのです。
それが世の中の構造なのです。
自分たちが頂点にいると勘違いしてるのでしょうけど、間違いなくあなたはプロレタリア。昭和から平成にかけて、ちょうど30代の頃ですが、そういう勘違い組が増えて行ったのを私は目の当たりにしてきました。

今回の運転士さんはとても気の毒ですが、わが国が世界に誇る安全正確な新幹線という交通システムが、結局劣悪な労働環境が改善されていないまま、個人個人の心構えによって成り立っているということが明らかになったと、私はそんなことを感じました。

ま、いずれにしても運転士さんが席から離れても電車は何事もなく安全に走行しているわけですから、だったらそろそろ運転士さんを乗せる必要もないのではないかと思います。

飛行機の場合は自動操縦で飛んでいても見張り義務という他の飛行物体との衝突を回避する役目や、機体のトラブルなどの緊急事態に対処してきちんと安全なところに着陸させるという義務が操縦士にありますが、新幹線の場合は運転士が「あっ!」と思ってブレーキをかけても間に合わないし、右にも左にも避けられません。地震などの外部要因が発生した場合は自動的に停止するシステムになっていますから、運転士さんは最初から要らないのではないでしょうか。路線バスの無人運転をするぐらいなら、新幹線の無人運転の方がはるかに簡単でしょう。

途中でおなかが痛くなったり、気絶したりする可能性がある人間を乗せることは、すなわちリスクでありますから、ブルジョワジーだと思っているTOP経営者の皆様方は、プロレタリアートに頼らないシステムを作った方がよろしいのではないでしょうか。

私は子供のころから新幹線の運転士になるのが夢でしたが、ならなくて良かったなあと、今さらながら思います。
運転はしてみたいですけどね。

労働者諸君! 今日もお仕事ご苦労様でございます。