キハ52のこと

いすみ鉄道のキハ52が引退するにあたってイベントを開催するというニュースが流れました。

脱線事故を起こして、まだ運転再開のめども立っていない会社がイベントを行うなんて何事か。

そういう意見が多数あるようですが、世の中いろいろな考えをお持ちの方がいらっしゃいますから、そういう意見もある意味でもっともなことだと思います。

先日、関係者の方にお会いしたところ、社内でも皆さんいろいろと葛藤があったようでしたが、キハ52に対しての感謝の気持ちというのが大切だということで、きちんと最後の花道を飾らせてあげたいということで、今回のイベントが開催されることが決まったようです。

もともとキハ52を導入したのは私であって、その当時の経緯などは私の口からじゃないと誰も説明できませんから、今日は皆様方に誤解のないように、YAHOOニュースで経緯を説明させていただきました。

ネットの社会ではいろいろな人たちがいろいろなことを言うもので、中には無責任な意見も多くあると思いますが、私がお話ししたことが事実ですから、ネットのいかさま情報に右往左往されることなく、私の発信する情報を拡散していただければと考えます。

さて、YAHOOニュースに書かなかったことがあります。
それは、キハ52を導入するにあたっての安全性の確認です。

もともといすみ鉄道にはLEカーと呼ばれる3セク用に作られた小型軽量のレールバスが走っていました。
自重は確か26トンぐらいだったと思いますが、そういう列車しか走らない線路の上を、40トンを超えるキハ52を走らせようというのですから、もちろん国交省が黙っているわけはありません。

「社長、そんな思い物を走らせて線路は大丈夫なのですか?」

担当官からこのように言われました。
つまり、許可を出さないということです。

「では、どうしたらよろしいでしょうか?」

私は逆に尋ねました。

鉄道会社の幹部職員というのは運輸局に対してひれ伏す傾向があります。相手は御上ですから、御上扱いです。
でも、私は航空業界出身ですから、鉄道業界よりもはるかに高い安全基準の中で仕事をしてきました。
そういう私にとって見たら、御上と言っても幕府ではなくて、田舎の石高数万石のところ程度に見えましたから、生意気にも「じゃあ、どうしたらいいのでしょうか?」と、逆に聞き返したのです。

こういうところが私の強みでもあり弱点でもあるわけですが、役人を相手に物事を前に進めるためには必要なスキルなのです。

そして、言われたのが
「鉄道総研に相談してみてください。」
ということでした。

で、さっそく鉄道総研に連絡をすると小山内さんという方が見に来てくれました。
キハ52という重い車両を走らせるにあたって全線をチェックしてもらったのです。

列車の前頭に立って全線を見ていただいた後、ここはと思う箇所を車で案内して現地を見ていただき、いろいろな機械を使って何やら計測して調べられていました。

その結果として、「別に問題ないと思いますよ。」ということでした。

私はよく知らなかったのですが、この小山内さんという方は業界では大変な権威ある方で、この方が「OK」を出してくれると、運輸局の担当の方も「総研がOKなら大丈夫でしょう。」ということで、キハ52が走ることを認めてくれたのです。

これがキハ52を導入するにあたっての安全確認です。

ところが、にもかかわらず、いすみ鉄道では脱線事故が発生しました。
場所は西畑-上総中野間。
脱線したのはキハ52よりも10トンも軽い新型ディーゼルカーで、乗客はわずか数名。しかも直前に重いキハ52が満員の乗客を乗せて通過している区間です。

事故調査に半年以上の歳月が費やされましたが、結局、事故原因として挙げられたのは「線路の不備」。しかも原因として断定するものではなく、「可能性が考えられる」といった表現で、つまりは、はっきりとはわからないということでした。

この事故の原因について、私は全く別の見解を持っていますが、事故を起こした当事者としてはそういう話はするべきではありませんから、ここではよしておきますが、そのうち私のDMMオンラインサロン(有料会員向けサイト)でお話しすることにしましょう。

事故原因はどうであれ、列車が脱線事故を起こしたことは事実でありましたので、私は軌道の強化を考えました。
ちょうど、京王井の頭線でPC枕木を置き換えるという話がありまして、古い枕木が大量に出るとのこと。古くたってコンクリートの枕木ですから腐っているわけじゃありません。

廃棄物だから持って行ってくれるんだったらさしあげますよ、というようなお話でしたので、アルピコ交通さんと半分ずつもらって来て、急カーブが連続する上総中野方面から大多喜へ向けて、数本に1本程度の割合で、要注意箇所に設置しました。

この時、JRから来ていた荒井さんという工務課長が居まして、この方が鬼の工務課長と呼ばれるほど厳しい方でしたが、「JRでは40キロレールにPC枕木は使えないはずなんだけど」と言いながらもちょうど合う締結装置を探してきてくれて設置したことを覚えています。

この区間以外でも限られた予算の中から古くなった木の枕木を毎年のように予算化して交換してきました。
私がかかわったのはここまでですから、その後、どのような保守がされていたのかはわかりませんが、いすみ鉄道の場合はみなし上下分離制度を採用していますから、基本的に線路の維持管理に関する費用は、全額ではありませんが、行政が予算化してくれていますので、工事計画にのっとって工事をして行っていたと考えています。そう考えると、今回の脱線事故がなぜ起きたのか、私としては不思議なんです。
でも、どんなに万全を期したつもりになっていても、事故は起きるものですから、やはり怖いですよね。

キハ52に関してはよく働いてくれましたので、当初から土休日の観光急行以外でもビール列車や夜行列車、そして一般の列車としてもマルチで活用できましたので、会社の経営には大きく貢献した車両だと思います。

鉄道会社の場合は、どの車両がいくら稼いだかというような金額を出すことはできませんが、2億円で新車を導入して一般の列車にしか使えないことを考えると、3000万円でおつりがくる程度の車両としては1~2年で元を取れるぐらい稼いだと思います。

後年、えちごトキめき鉄道で同じように国鉄形の413系、455系を導入して観光急行をやりましたが、確か3500万円程度の導入費用で年間5000万円ぐらい稼いでくれましたから、国鉄形車両は上手に導入できれば会社の経営に貢献できると考えています。

ということが、キハ52の功績であり、その功績を一番よく知る私としては、いすみ鉄道が困難な状況の中で引退のイベントを開催していただけることは、とてもありがたいことでうれしく思います。

このイベントは3日間行われるようですが、残念ながら私は今年のゴールデンウィークは山籠もりをする予定ですので行くことができません。

何とか成功することを願っています。

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いすみ鉄道で国鉄形ディーゼルカーが走った本当の理由(鳥塚亮) – エキスパート – Yahoo!ニュース