同時発車の技

昨日今日と、JR千葉支社といすみ鉄道が共同企画した「115系湘南色 快速外房号で行く いすみ鉄道の旅」が催行されました。
このツアー企画は、昭和の時代、千葉の鉄道の起点であった両国駅の低いホームから発車する国鉄形車両に乗って、いすみ鉄道の昭和の国鉄形ディーゼルカーを堪能していただこうという趣旨で行いましたが、この旅のメインイベントとなったのが、夕方、大原駅で行われたJR115系といすみ鉄道のキハの同時発車です。
企画立案者であるいすみ鉄道の金船課長が、広報用の写真を撮影しましたのでご覧ください。


いすみ鉄道のホームとJR外房線のホームは大原駅で並んでいますので、その並びを利用して、お金のかからないイベントをやりましょうということで実現したこの「同時発車」ですが、皆様にはすぐお気づきと思いますが、電車と気動車では加速性能が違います。こういう同時発車を実現するためには、電車の方で速度調節していただかないと不可能なんですね。
今回は、JR千葉支社の皆様方の熱意により、詳細な事前打ち合わせの上にこういう光景が実現したのす。
「だから何だ。」とおっしゃる方もいらっしゃると思いますが、そういう方は「いすみ鉄道のお客様」にはなれない人ですから、このような観光列車には「乗らない方が良いですよ。」としかお答えできませんが、私は、JRと第3セクターの間でも、やろうと思ったらこういうことができるんだということが素晴らしいと思うのです。
今回のこの国鉄形同士の同時発車は、数年前まではどこでも見られた景色かもしれませんが、今ではとても貴重なものですから、ご参加されて記録された方は、幸せな気分になられたのではないでしょうか。
そもそも同時発車の素晴らしさというのを私が初めて体験したのは、高校生のときの夏休みに日本食堂の列車食堂でアルバイトをしていた時のことです。
上野からの「はつかり2号」(上野9:31→青森18:01)で青森に到着して1泊した翌日、青森駅を朝8時15分に出る特急「はつかり2号」(上野着16:44)という行路で乗務した時のこと、青森駅のホームには同じ8:15に出る羽越線経由の上野行「いなほ2号」が並んで停まっていました。
車両は485系で、中間に食堂車を連結した12両編成はどちらの列車も同じ編成です。ふと見ると、ホームを挟んで向こう側の食堂車でも職員が忙しく開店準備作業中です。
やがて発車時刻になると、当時の食堂車の料理長が私に「面白いものが見られるぞ。」と教えてくれましたので、手を休めてみていると、発車ベルが鳴り、2つの列車のドアが同時に閉まりました。
そして、同時に発車。
青森駅を出てしばらく並走する間も、列車は同じ速度で走り、やがて分かれていくときに、向こうの食堂車とこちらの食堂車の職員同士が手を振って離れていきました。
夏休みのアルバイト期間中、この行路に3回ぐらい乗務しましたが、いつも同じ光景でしたので、きっと、駅員さんも運転士さんも車掌さんも、関係者皆で意識してこの同時発車を演出していたんだと思います。
でなければ、あんなに見事に同時にドアを閉めて、速度をそろえて並走するわけないし、単なる偶然ならば料理長が私に「面白いものが見られるよ。」などと教えてくれるはずもありませんから、こういう技を当時は一生懸命磨いていたんだなあと感じるわけで、そういう職場には職業に対する誇りがあったことが今考えてもよくわかります。
特急列車が看板列車として君臨していた時代には、その運行に従事する職員の誰もが誇りを持って働いていたんですね。
(この光景を見た1976年当時は、コンピューターによる列車運行システムなどありませんから、信号係、改札口、発車合図を出すホームの職員など、運転士や車掌ばかりでなく、あらゆる職種のスタッフが、この同時発車を演出していたことになると思います。)
今回も、JRと第3セクターという別々の会社ですが、お互いに鉄道従事者として、こういう技を発揮できたということは、私は、JRの皆さんも、いすみ鉄道の職員も、皆、鉄道で働くということに誇りを持っているんだということがわかるんですね。
運転士さんだけじゃなくて、関係する職員すべての人の「思い」があればこそ実現できた同時発車の技なんだということを、皆様方にはご理解いただきたいと思いますし、鉄道の職場というのは、そういう「誇り」を持って働いている人たちが集まっている素晴らしい職場だということをお伝えしたかったんです。
37~8年前に私が見た同時発車に思いを馳せた今回の同時発車でしたが、これを見た今の若い人たちが、20年、30年後にどんな面白い企画を考えてくれるのか、私は楽しみですし、もしかしたらそれが、今の私に課せられた「次の時代に鉄道の良さを繋いでいく」という使命なのかもしれないと思うのです。
https://www.youtube.com/watch?v=n_t_VPkyIK8