雨の日スペシャル

今週末は何とかお天気が持ちそうですね。
やっと・・・という感じです。

今年は春先からずっと週末ごとにお天気が悪くて、地域によっては毎週土日に雨が降ったというところもあると思います。
雨が降ると商売はあがったりですよね。
お客様が来ない。
これ、万国共通でしょう。

どんな商売にも弱点というのがありますが、雨が降ったらお客様が来ないというのは、特に日帰り観光地にとっては大きな弱点です。

北海道や沖縄など、飛行機やホテルを予約して何週間も前から計画している旅行なら、大雪になろうが台風が接近しようが、とりあえず飛行場へ行く準備をして、飛行機が飛ぶ限りは行くでしょう。
でも、日帰り観光地となると木曜日あたりに「今度の土日は雨でしょう。」と天気予報が言っただけでお客様は来ないのです。

ということを、房総半島にいるときにイヤと言うほど味わいました。
木曜日に週末のお天気を調べて、雨のようだとなったらお弁当の発注数も減らさないと大量に余ってしまうことになりかねませんから。

まぁ、ロスを防ぐだけなら良いんですけど、お客様が来なくなるというのは売上に直結するのですから、雨が降っても何とかお客様にいらしていただきたい。
どうしたらお客様にいらしていただけるか。
売上を上げることができるか。
いろいろと考えまして、私は「雨の日スペシャル」というのを企画しました。

どういうことかと言うと、雨が降ったら観光急行列車の正面に取り付けるヘッドマークをいつもと違うものを付けて列車が走るのです。

だんだんと記憶があいまいになってきましたので間違っていたらごめんなさい。
確か土曜日は「夷隅」、日曜日は「そと房」というヘッドマークを付けて走らせていたのですが、雨が降ったらそのヘッドマークを他のものに取り換えるのです。

ヘッドマークは差し札式で、台座に板をスライドさせるタイプでしたから、取り換えるヘッドマークを確か10~15種類ぐらい作りまして、どれも千葉の鉄道にちなんだものを用意しましたが、雨が降ったら当日の担当運転士が好きなヘッドマークを取り付けて走っていいよというルールにしました。

金曜日の夕方に、翌日の担当運転士が「明日は雨のようだから、何をつけるかなあ」とウキウキしてまして、朝、出勤してきたら好きなヘッドマークを取り付けて、パシャッと写真を撮ってネットにUPするんです。
その運転士にフォロワーができたりして、「おっ、今日はあの列車が走る」とネットがざわつきます。

JRでこんなことをやったら会社中が大騒ぎになるでしょう。
現に今も飯田線で運転士だか車掌だかが何かやらかしたようでニュースになっていますが、飯田線のような路線でふつうの輸送をやっていたのではジリ貧なのですから、そういうことをやろうとする乗務員は大井川鐵道で欲しいぐらいです。

それはさておき、千葉県の房総半島は東京からの日帰り圏内ですからね。
お気に入りの乗務員が発信する朝の情報を見て「よし、今から行くぞ!」となっても間に合うわけで、沿線や駅には雨が降ると人がたくさん来るという現象が起きました。

起きました、というか、起こしたんですけどね。

とまあこんな感じです。
雨が上がってお昼から晴れて来ても、その日はいつもと違う列車です。
車両は同じですよ。
この形式は1両しかありませんでしたから。
でも、ヘッドマークを変えるだけで七変化ですよね。

こうして乗りに来る人や沿線に来る人を増やしたのです。

さて、

「そういうアイデアはどこから湧き出るんですか?」

いろいろな人から聞かれます。

実は私、アイデアマンとか言われるのはあまり好きではなくて、なぜなら単なる思い付きだと思われるからで、まぁ、単なる思い付きでも良いんですけど、大事なのはそれを実行に移すかどうかということなのです。
つまり、現場に出ること。行動すること。
口で言ってるだけでは単なるアイデアマンでしょうけどね。
現場に出て、お客様と接して手ごたえを感じたり、あるいは「こりゃダメだ」と思ったり。
そうしてダメならどこがダメなのか改良して行くのがいわゆる「商品づくり」でありますから、現場に出ないで分かったようなことを言っている人は、だんだんと言ってることがずれて来るのです。

話を元に戻しますが、私のアイデアはどこから出て来るのか?
という質問に対して、私はいつも「商店街育ちですから」と答えるようにしています。

私は板橋の商店街育ちですから毎日のように商店街を歩いていました。
雨の日も風の日も、暑い日も寒い日も。
当時の商店街は活気があって、八百屋さん、魚屋さん、肉屋さん、パン屋さん、乾物屋さんなどが声を張り上げて道行くおばちゃんたちに商品を勧め、買ってもらうのです。

今から50年以上も前の話ですから、当時の商店街の商店主さんたちは大学など出ている人はほとんどいません。
皆さん、義務教育で読み書きソロバンを習ったらお店の前で声を張り上げて「いらっしゃい、いらっしゃい」です。

私は八百屋さん、肉屋さん、魚屋さん、パン屋さんなど、いろいろなお店のおじさん、おばさんと顔見知りでしたから、夕方商店街を歩いて家に帰る途中など、声をかけられたりするわけで、よ~く彼らのやっていることを見ていたのです。
つまり、現場ですね。

そうすると、いろいろなことに気が付く。
小学生、中学生、高校生と大きくなるにしたがって、子供のころ不思議だった彼らのやっていることが、「あぁ、なるほどね。」とわかるようになってくるわけです。

で、どんな商売にも弱点というものがありますが、商店街も雨が降ると客足がパタッと止まる。
仕入れたものが大量に売れ残ってしまいます。

じゃあどうするのか。
ある時彼らは「雨の日スタンプ2倍セール」というのを始めました。
雨が降るとスタンプ(という名のチップ)が2倍貰えるのですから、おばさんたちが商店街にやってきます。

居酒屋さんはどうでしょうか?
雨が降ると居酒屋のおじさんおばさんが暇そうにして、
「今日はお茶っぴきだ」
と言っています。

そんな時、彼らは何をしたのかと言うと、「雨の日は生ビール半額セール」というのを始めました。
するとどうでしょう。
夕立の日でもそこそこお客様がお店に来るようになりました。

極めつけは三越デパートだったと思います。
夕立のように急に雨が降ると、デパートの出口で
「どうぞ傘をお持ちください。」
と、傘を配っています。
「お客様、濡れないようにこちらをお使いください。」
店員さんがにっこりと笑いながら傘を手渡しています。
もちろん無料です。

そんな、いくら買ってくれたかわからない客にまで傘など配って、どういう計算をしているのか。
確かにそうですよね。
傘は今のお金で1本500円ぐらいするでしょうから。
そのデパートの平均利益率が3割として、購入金額1500円以下のお客に500円の傘を配ったら利益が飛んでしまいます。
わざわざ損しているようなものです。
大きな資金力がなければできることではありませんが、当時の三越は一見損するようなことをやっていたのです。

これ、現場を知らない経営者ならそう考えます。
近視眼的に、これをやったらいくら儲かると、頭で考えるからです。

でも、その時現場ではお客様は「あぁ、助かった。」と笑顔でお店を出ていくわけで、顧客満足度は莫大に上がりますよね。
そのお客様は職場や学校へ行って、「三越って親切だよ。」と言って、傘を見せる。
その傘には大きく「三越」って書いてある。
雨が降ったら銀座や池袋の街中には「三越」という傘があふれかえるわけで、お客様が歩く広告塔として自ら宣伝してくれているのです。
これが商売というものです。

三越というデパートがブランドとして隆盛を極めた理由はこういうところにあったと私は思いますが、(その後、現場を知らない社長が会社をダメにしてしまいましたが)、そんな大きな百貨店じゃなくても、資金力のない小さな町の商店街でも皆さん様々な工夫を凝らして弱点を克服する商売をしているのです。

だから、もうおわかりだと思いますが、ヘッドマークの雨の日スペシャルというのは、商店街の「雨の日スタンプ2倍セール」や「雨の日生ビール半額セール」と同じことなのです。
つまり、私の発想の原点は子供のころ育った商店街であり、池袋のデパートであり、スーパーマーケットなのです。

もちろん、時代が変わると売れる商品も変われば商売の仕方も変わります。
でも、変わらないものがあります。
それは何かというとお客様の心理を上手に理解して商品を揃え、商売をするということです。

鉄道会社の場合はこういうことがなかなかできてきませんでした。
毎日毎日同じことを繰り返して、気が付いたらお客様が居なくなっている。
これがこの半世紀の鉄道会社です。
その理由はお客様に対して「お乗りいただく」のではなく、「乗せてやってる」という姿勢が見えるからではないかと私は思います。
輸送という商品を供給する側の皆様方から見たら「そんなことはない」と言われるかもしれませんが、売り手側がどう思おうと、買い手側であるお客様がそう思ったら物事はそうなるのですから、いわゆる親方日の丸では生きていかれない時代が、そうですね、もうかれこれ40年ぐらい前から来ているわけで、その最先端を行っているのがローカル鉄道ですから、私は商売の原則に従って、どうしたらお客様に乗っていただけるのか、いらしていただけるのかということを、忠実に実行しているのであります。

ということで、大井川鐵道のEL急行列車。
今日はヘッドマーク無しで走りました。
ヘッドマーク無しも良いでしょう。

いつ、どんなヘッドマークを取り付けて走るか?
あるいはヘッドマーク無しで走るのか?
これは雨の日スペシャルではありません。

大井川鐵道ファンクラブのご入会いただいた有料会員の皆様へのみ告知させていただいております。

けち臭いと言われる方もいるでしょうね。
でも、これだけネットの時代になりましたから、無料の情報と有料の情報とは価値が違うのであります。

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鳥塚亮(大井川鐵道社長) – 鳥塚亮のローカル鉄道オンラインサロン – DMMオンラインサロン

どちらも有料ですがそれなりの情報は得られると思います。
雨の日スペシャルの時代から15年近く経ちますので、情報発信のやり方も変わってくるのであります。

ブログじゃあまり過激なことは書けませんので、その分、オンラインサロンをご活用ください。

明日は地域によっては貴重な晴れ間になるようです。
皆様、どうぞよい週末をお過ごしください。