線路には複線と単線があります。
皆さんは複線と単線、どちらが使えると思いますか?
都会の電車は複線で田舎の電車は単線というイメージがあるでしょう。
高度経済成長期の国鉄は、単線区間の線路を改良してどんどんと複線化していきました。
だから、当時を知る私たちも「単線から複線になる」イコール「進歩した」と思っていました。
でも、日本の複線には落とし穴があるのです。
それは何かというと、複線の線路は一方通行で、単線の線路は両方に走れるのです。
今、新幹線大爆破という映画が話題になっています。
あまり言うとネタバレになってしまいますが、番宣で出てくるシーンで、上りの新幹線が下りの線路を走るシーンがあります。
あれ、実はできないんです。
なぜなら、下りの線路は下り列車しか走れず、上りの線路は上り列車しか走れませんから。
つまり、信号が付いていないのです。
まぁ、映画ではATCを切っていますから、信号なんか関係なく線路として走ることはできるわけですが、とにかく複線は一方通行の線路を反対側に走ることはできないので、駅間で列車が停止してしまった場合、列車は逆に向かって戻ることはできません。(できるのでしょうけど、やりたがりません。)
これに対して、単線だと、例えば駅間で何らかの事情で列車が停止してしまった場合でも、指令センターで信号を切り替えれば反対方向に戻ることができます。
信号はもちろん踏切などの起動回路も、両方から列車が来ることが前提になっていますから、前方に何か障害物があったとしても、バックして手前の駅に戻ることができます。
そう考えると、複線は駅間ですれ違いができますから列車本数を増やすことはできますが、意外に不便なんです。
何年か前に新潟で大雪で列車が動けなくなったことがありました。
複線区間でしたから、列車は逆戻りすることができません。
サッサと保安装置を切って、運転席を切り替えて手前の駅まで戻ってしまえばよいものの、複線だから前に進むことしか頭がない。
途中に踏切があれば、列車はもうすでにその踏切を通過していますから、複線区間で戻ろうとしても踏切が起動しません。
そうしたら安全確保できない云々と言っているうちに雪がどんどん降り積もり、前に進むことはもちろんバックすることもできなくなってしまいました。
結局、多くのお客様を乗せた状態で、その列車は一晩その場所で動かなかったのです。
こんなことがあって、複線というのは意外に使い勝手が悪いなあと思ったのですが、大都市の路線、JR、私鉄を含めて、日本の鉄道はほとんどが複線ですから、例えば人身事故がどこか1か所で発生しただけで、「全線運転見合わせ」が起きるのは皆様ご存じの通りでしょう。
でも、この複線に対して双単線という線路があります。
一見、複線なんですが、実は単線が2本並んでいるところです。
それはどこかと言うと、台湾の国鉄です。

台湾の国鉄は日本時代に基礎が作られましたから日本のJRと同じ軌間1067ミリ。
車両は違いますが、左側通行で日本と同じです。
ある時、私は台湾の西部幹線で特急列車「自強号」に乗っていた所、列車が駅間で急停車しました。
車掌さんに聞いてみると、この先の踏切で事故があったようでこれ以上前に進めないとのこと。
向こうに着いてから約束があったので、「まいったなあ」と思いましたが、じたばたしても始まりませんのでケセラセラで居眠りすることにしました。
するとどうでしょう。
数分後に列車は逆行を始めたのです。
今来た道を逆戻り。
それもかなりのスピードです。
しばらくするとどこかの駅に停車して、また数分後に再度逆行を始めました。
つまり本来の目的地へ向かって、もう一度走り始めたのです。
「どういうこと?」
って感じですよね。

後でわかったんですが、台湾の線路は複線に見えるけど実際には単線が2本並んだ双単線。日本では一般に単線並列と呼ばれているようですが、双単線ではどちらの線路もどちらに向けて走ることができるのです。
だから、この時は下り本線が踏切事故で支障していても、もう片方の上り本線を使って単線扱いで列車を交互に通していたのです。
そしてその現場を通り過ぎたら、どこかの駅で渡り線を使ってまた元の線路に戻るという芸当を見せてもらったのです。
日本で言えば、例えば総武快速線が新小岩の上り線で人身事故が発生して列車が運行できなくなったとしましょう。
そうすると当然全線運転見合わせになりますね。
なぜなら下りだけを運転しても折り返してくる列車が運転できませんから列車が詰まってしまいます。
運転整理上は全部止めちゃった方があとあと楽ですから。
でも、複線ではなくて双単線であれば、下り線1本を使って上下列車を走らせることができますから、千葉方面から東京方面へ向かう上り列車は、例えば市川を出たところで下り線に入り、新小岩の駅を過ぎたら再び渡り線で上り線に入るようなことができるのです。
もちろん、この場合、市川―新小岩間が単線扱いになりますから通過できる列車の本数が限定されますが、それでも全線運転取りやめよりははるかにましですよね。
お客様にとってはですが。

これが台湾の双単線です。(電化前の花東線、2012年)
上り下りそれぞれの線路に信号が付いているでしょう。
通常は左の線路を走りますが、右の線路も同じ方向に進むことができますので、走行中の追い越しも可能です。
つまり、新幹線大爆破のようなことも信号をONにしたままできるのであります。
ではなぜ台湾はこういう重い設備を持っているのでしょうか。
その理由は台湾の鉄道は軍事施設として取り扱われているからです。
だから、ちょっと片側が支障したぐらいで全線運休など簡単に宣言できないのです。
私はもうかれこれ20年以上も前から台湾の国鉄の許可を得てこのように前面展望映像を撮影してきました。
私が撮影を始めた当時は、すでに中国本土との緊張は緩和されましたが、直前まで軍事施設である鉄道は撮影禁止でした。
台湾でも田舎の方へ行くと、駅構内や車庫で撮影していると係員がすっ飛んできて「お前はここで何をしている。ここは撮影禁止だぞ。」と怒られたものです。
当然ですが、撮影許可証はもらってますのでそれを見せると不思議そうな顔をして無線で本部へ連絡。しばらくして返事が返ってくると、その職員の方はいきなりニコニコして、「ごめんごめん。知らなかった。好きなだけ撮ってくれ」となることが何度もありました。
私の先輩たちは列車を撮影していると警察が来て、パトカーにのせられて警察署へ連れて行かれて、撮影したフィルムを全部没収された方がたくさんいらっしゃいます。
そういう国を挙げての大事な設備が鉄道だったのが台湾ですが、日本はそうじゃないですから、効率化を考えた時にそこまで重い設備を持たせる必要はなかったのでしょう。
一説によるとマッカーサー率いる進駐軍が日本の鉄道の複線化にあたって「その程度で良い」と判断したという人もいますね。
進駐軍は日本の幹線鉄道の電化延伸にも反対したようですから。
「日本のような小さな国土では、そこまでする必要はない」ということだったのでしょう。
その証拠にアメリカやヨーロッパでは基本的には複線ではなく双単線が一般的で、全区間じゃなくても同じ複線に見えても一部区間は双単線になっているところがたくさんありますからね。
日本は逆に双単線じゃなくて複線だからこれだけ緻密なダイヤを組めるという利点があることも事実ですが、片方だけで往復運転できれば、線路改修や整備のための全線運休なんてことはなかったのだろうと思わざるを得ません。
そういう意味で、列車本数は増やすことができるけど、何かあったらにっちもさっちもいかなくなるという不便さを抱えているのが「複線」でありますから、私は単線の方が便利だなあと思うのであります。
日本でも地下鉄などでこの双単線化が進んでいるようですから、また新しい時代が来るかもしれませんよ。
但し、最初のうちはお客様は戸惑いますよね。
池袋行を待ってたら、そのホームに荻窪行が来るのですから。

検索したら出てきました。
今から9年前にこの双単線のブログを書いていました。
双単線のすすめ。 | 大井川鐵道社長 鳥塚亮の地域を元気にするブログ
皆さん、新幹線大爆破、見てね。
おもしろいよ。
あらさがしするようなマニアは楽しめないとは思いますが・・・

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